“カフェで個展”をテーマにした本の企画には、若かりし頃の経験が、ベースにあった。

私は高校卒業後、2年間のフリーター生活でお金を貯めて、通信制の短期大学に入りグラフィックデザインを勉強した。図工も美術も大の苦手で成績もアヒルだったけれど、憧れていた某出版社の方のインタビュー記事に「編集の仕事に就くにはデザインがわかったほうがいい」と書いてあるのを読んで、進路を決めたのだった。無試験で潜り込んだはいいものの、課題をこなすのにひと苦労。デザインのセンスを身につけるより、やっぱり私はこっち系じゃないのねーというコンプレックスを増大させた3年間だった(1年だぶった)。

楽しくなかったのかと言えば、それは最高に楽しかった。スクーリングではたくさん友だちができて、通信だからか顔ぶれもいろいろなのがよかった。

授業のおかげで写真を撮るおもしろさにも目覚めた。数寄屋橋のニコンで中古のFEとマイクロニッコール55mmF2.8を買い、高感度のフィルムで夜の街を写して卒業制作にした。写真集にまとめる時に、撮影、紙焼き、製本を自分でするわけだが、構成を決める作業にいちばんのおもしろみを感じた。どの写真をどの順番で並べるか、この写真の対抗に何を持っていくか。そんなことで写真の魅力が変わってくるのを目の当たりにしながら、編集の必然性を実感したことは、いまにつながっている。

少しすると私の卒業制作を手伝ってくれた友だち(最近でも一緒に本づくりをしている金子亜矢子)が写真新世紀に入選し、翌年にはHIROMIXがグランプリをとって時代はガーリーフォトブームに。私も自分の写真展とかやってみたいな…と恐れ多いことを考えたりもしたけれど、ほかの人たちに感じる写真の魅力が自分に欠けているっていうのが痛いほどわかったので、いいなあと憧れているだけだった。

(つづく)
自分の写真展を開くなんて大それたことは、夢のまた夢……。

しかし、それから約10年後。
この企画を立てた2005〜2006年頃になると、カフェで個展や手作りイベントをする動きが活発になっていた。

カフェブームがはじまったと言われるのが2000年前後で、代表的な暮らし系雑誌が登場したのが2002年のこと。スローライフがうたわれるようになり、手仕事の良さが見直されはじめ、2006年の秋には「もみじ市」と雑司が谷の「手創り市」が立ち上がっている。

喫茶店の壁で絵を展示するーーのはわりと古典的で、以前からあったと思うのだが、どこか優雅なおじさま、おばさまたちのためのもの、という印象を勝手に持っていた。

けれども今どきのカフェは違う。世代の近いオーナーによる店はとてもすてきだし、カフェで展示をすれば、もし自分の作品目当てのお客さんが数人の友人だけだったとしても、カフェのお客さんに作品を見てもらえるからさみしくない。そして、来てくれる友人にしても、私の作品を見るだけでなく、カフェでおいしいお茶ができたら手持ちぶさたにならないのでは!
(もちろん、カフェだからといって展示をするのはそんなに甘いことではないです、ねんのため)

そんなこんなを企画書にまとめた。カフェだけでなく、雑貨ショップや自宅など、いくつかの場所や方法で、個展やイベントを開いている人たちを集める構成にした。

つけた仮タイトルは「小さな発表会をひらこう」。

無事企画が通り、自分が思うままに取材アポをとって、さまざまな人に会いにいく。
自分がほんとうに興味を持っているテーマで、それを実践している人の話をききにいけるのは、幸せだったし、興奮の日々だった。この本の取材をしている時は、自分の目の前に新しい世界がどんどん広がっていくような感覚があった。

8割がたの取材を終えて、全体の構成の調整をとりながら、ようやく最後のアポが決まった数日後ーー。編集担当から電話がなった。版元が倒産し、社屋が差し押さえられてロックアウトになったという。ロックアウトってなに!? 取材も撮影もほぼ終わっているのに、どうなるの!? 一瞬パニックになりながら、いちばんショックを受けているであろう編集者の気持ちをかき乱してしまわないように、なるべく落ち着いて返事をするので精一杯だった。

(つづく)